小人閑居

世の中に貢献もせず害もなさず、常に出力50%。

自傷行為

今日は絶対に残業はしないんだ、と心に決めていたにもかかわらず、残業になってしまった。しかも、ノー残業デイという制度のため残業代もつかない。残業になったことは仕方ない。どんなにしっかりと手入れをして管理をしていても台風にはあってしまう田んぼみたいなものだから。

それでも、疲れ切って、座れないまま混んでいる電車に揺られ。なんとか家に帰りつくと、猫のうんこが家じゅうに転がり、台所にはここ2日間の汚れたお皿が散らばっている。資源ごみという名目で捨てられていないミルクのカートンや缶がそこらじゅうにおかれている。

汗まみれのまま、猫のうんこを拾い、汚れた皿を洗っていると、急に怒りが込み上げてきた。

一日働いて、家に帰ってきても座ることもできないまま、こうやって家事をするのか。しなければいいという問題じゃない。こういう散らかった家では気持ちすらも休まらない。だから、家事をするという選択肢以外にはないのだ。そこを理解もしないで、しなければいいとか言うな。込み上げる怒りを抑えて、黙々と皿を洗う。

洗物の汚れた水がはねて顔にかかった瞬間に、自分の中で怒りがぐっと頭をもたげる。

ダメだ。心が荒んでいる。帰ってきて、疲れて汚いままで、座って紅茶を飲む暇もなくこうやっているからだ。でも、ここでがんばれば、おいしい紅茶を今から入れるから、ゆっくりできるよ。クーラーもガンガンつけちゃうよ。

そう言い聞かせながら、茶葉の入ったキャビネットを開けたら、適当に入れられていたカロリーメイトが足の上に落ちてきた。

もう駄目だ。

怒りが抑えられない。

カロリーメイトの箱を床に投げつけると玄関まで飛んで行った。そのままの勢いで、目についた資源ごみも全部燃えるごみに突っ込む。瓶だって突っ込む。目についたものでごみとみなしたものはすべて突っ込む。夕食の材料もごみ箱行きだ。

ここで、資源ごみを分別しないなんて、食べ物を無駄にするなんて、とわたしにお説教を垂れる奴がいたら、たぶん怒鳴りかえす。

あなたが今、泥沼のなかを這いずり回る仕事から帰ってきて座る間もなく休む間もなく猫のうんこや汚い皿を洗っているわけじゃないよね。散らかった台所を片づけてるわけじゃないよね。わたしの怒りを引き受けてくれるわけでもないよね。わたしは今、怒ってるんだ。自分で選んだ人生の中に潜んでいる小さな重荷に躓いて足の小指をぶつけた痛みにのたうって怒り狂っているんだ。その怒りは理不尽で子どもじみていてばかげている。わかっている。でも、それを抱えているままではいられない。だから、こうやっていけないことをしているんだ。

これは、わたしの自傷行為だ。

腕にカッターで切りつける勇気もなく、そういう傷を見られたくないという見栄っ張りがする自傷行為

自分の愚かさに自己憐憫に浸るために、計画的にずるく一人で爆発させ、そのあとをKに見つけさせて、かまってもらうための自傷行為

その証拠に、ごみの中から、とりあえず燃えないゴミだけは拾い集めて分別をしている。

こういう愚かさは年齢とともになくなる人もいるんだろうか。

賢くはなれそうもない、と嵐のあとになんとなく整理された台所を見て、紅茶を飲みつつ思う今日この頃。