思い出のカレー
最近SNSでセブンのビリヤニが話題になっている。あの人も、あの人も、あの人も食べている。
わたしはビリヤニが好きだ。
イングランドに住んでいたころ、友人や知人がよくいくカレー屋があった。イングランドのカレー屋は、バングラディッシュやパキスタンから来ている人たちが多い。何人かでグループを作り、順次イングランドに行く人を入れ替えつつお店を維持している。回転が速い店もあったが、わたしがよく行っていたカレー屋は回転が割とゆっくりだった。
はじめてその店に行ったときに、辛いものが実は苦手で、酔っぱらったような状態になることを説明すると、進められたのがビリヤニだった。バスマティ米に具材を入れてカルダモンやシナモン、クローブなどのスパイスを入れて炊き上げ、その上にパクチーやゆで卵を乗せ、ベジタブルソースで食べるのだと。初めて見たときには、「カレーonドライカレーだ」と思ったが、実においしい。松の実やアーモンドスライスの香ばしさもあり、ベジタブルソース(という野菜カレー)もスパイシーでおいしい。添えられているレタスなどの野菜を一緒に食べるとあっさりとしていくらでも食べられる。
しかし、そのビリヤニに入っていたのはKing Prawnという大きめの海老。
「うーん、これ、Prawnに変えられます?」
とウェーターに聞くと、
「もちろんできるよー。じゃあ、次回からそうするねー」
と笑顔で答えてくれた。
そして、その次からわたしが行くとKing Prawnではなく小さなPrawnをたくさんたくさん入れたビリヤニを作ってくれた。わたしがいくと、いつものだねってノリでそれが出てくる。Take awayでも同じメニューを食べていた。とにかくPrawnビリヤニを食べて、食べて、食べて。10年くらい食べていた。
そうしたら、ある日、いつものウェーターがいない。出てきたビリヤニも味が違う。そこで、あの人たちは国に帰ったのだと気が付いた。内装もカトラリーもお皿もすべて同じなのに、登場人物がすっかり入れ替わってしまった劇団の芝居の舞台のような店内で、違う味のビリヤニを食べながらもう二度と食べられないPrawnビリヤニへの追悼を静かにした。
ま、そのビリヤニもおいしかったんですけどね。
セブンのビリヤニはもちろんわたしの思い出のビリヤニとまったく違う。
でも、それでいい。みんなちがってみんないい、それがカレー。