初夢
猫がいなくなった。
探しても探しても見つからない。
Kはもう少し探そうと言ってくれる。あきらめないでチラシを作ったり、町の人に声をかけたり。猫見ませんでしたか、猫、灰色の猫。しっぽが長くてきれいなんです。でも、目が見えなくて耳も聞こえなくて、年取っているのでふらふらしてるんです。
空のこたつを何度ものぞいて、水を変えて、掃除機もかけて。
その時、外から猫の声が聞こえた。不満があふれ出ている濁った鳴き声は猫の声に間違いない。帰ってきたのか、家路を見つけることができたのか、1週間かけて遠くの蜘蛛の巣の水滴をなめに行っていたのか。早くいかなければ。部屋の中の蔦を払い、あふれた風呂の水を渡り、玄関の鍵を回す手が滑ってしまう。
そうこうしているうちに猫の声は遠ざかる。行ってしまった。行ってしまった。見つけることができなかった。あんなに一生懸命に帰ってきてくれたのに。いなくなった遠くからほの暗い道をぽつりぽつりと辿ってようやくここまで帰ってきてくれたのに。
Kに訴えながら、でも、と思う。でも、きっともうここには帰ってこないんだ。帰ってこれないんだ。それでも一生懸命に近くまで来てくれたに違いない。あれが、あの鳴き声がきっと最後の挨拶だったんだ。22歳で病気だったから、もうきっと死んでしまっている。そうだ、猫は死んだんだ。あのつるつるした灰色の毛皮も、長くて細い尻尾も、煙ったような青い目も、細くてかたいひげも。すべてが失われてしまった。
それでも、来てくれた。最後の最後に声だけでも聴かせてくれた。
ありがとう。