梅雨の梅
4月に転職して、休みが不定期になった。土日休みはそれなりにいいけど、5連勤は結構つらい。通勤も自転車になったので、最近とても時間に余裕ができたような気がしている。気がしているだけで、よく考えれば仕事とは別に参加をしているプロジェクトが2つあり、自分のプロジェクトが1つある。仕事も元々やりたかった分野により近くなったのはとても楽しいけど、その分、論文読んだり道具の作成をしたりしないといけないし、実は結構大変だな。とか言いつつ、論文を書く機会にも恵まれて、本当にやりたかったことに近づいていて、かなり楽しい。
そんなこんなで、猫がいない生活はそれなりに続いていく。
時間に余裕ができたと感じているので、今年は梅干を漬けることにした。とりあえず2キロ。仕事から帰ってきたら、タイミングよく梅干用の梅が届いた。よく熟していて箱を開ける前から馥郁と梅の香りがする。梅の香りを楽しみながら久しぶりの梅仕事。梅干は塩分は20%と決めているので、400gのマラドンソルトを量る。梅の実の薄緑から紅色のグラデーションと真っ白な塩。見るからにおいしそうな色の取り合わせだけど、この状態では食べることができないんだよな、と考えるのは毎回のこと。
最後に梅を漬けたのはもう7年以上前。そのころは、まだおかめも割と元気だった。よく日向ぼっこもしていた。梅干に猫の毛が入ってしまって困ったりもしていた。
梅の香りは今も昔も変わらない。梅雨の湿度で部屋の中にたぷたぷと広がっていく。
そうだ、今年の梅はおかめにささげよう。論文もおかめにささげよう。
どっちもいらんわ、肉よこせ、って声が聞こえた。
時間薬
時間薬ってよく言われるが、確かに時間でしかよくならないものがあると思う。
おかめが他界してもう2か月以上がたった。まだ、そのことについてうまく話せない。でも、忘れたくないことがいくつかある。Kと一緒に夜遅くまで帰れなかったわたしを待っているかのようだった最後。膝の上のおかめがとても軽くなっていたこと。最後まで膝の上に抱いていてもらえるように猫は死に際に体重を捨てていくのだろうか。翌日が春分の日で、すごく寒くて雪がしんしんと降り続いていたこと。雪を見ながらKと一日中泣いたこと。翌日が休日の夜に他界するなんて、最後までいい猫だった。おかめの野辺送りに行ったとき、火葬場から見た夕暮れの空がとても広かったこと。おかめのご自慢の長くてまっすぐなしっぽは骨の一つもダメージがなくきれいなままだったこと。あんなに何度も修羅場をくぐってきていたのに。
そろそろおかめのことが書けるかもと思っていたのに、書こうとすると馬鹿みたいにぼろぼろと泣けてくる自分に、まだ時間が必要なんだとびっくりしている。心の中でそこだけゆっくり時間が流れている。日々の生活は忙しく過ぎているのに。
おかめのことを心配してくださっていた方々、ご報告が遅れてしまいました。ありがとうございました。
引っ越した
10年住んだところから、仕事場により近くなる所へ引っ越した。
1月からこちら、いろんなことがバタバタと決まったが、そのうちの一つが引っ越しだった。
引っ越しの時に、いい機会だと思っていろいろなものを手放した。それなりの思い入れのあるものたちだけど、そろそろ少しくらい身軽になってもいいかなとも思った。必要とする誰かのところに引き取ってもらえるなら、それはそれでいいことだろう。
それでもどうしても手放せないものもあった。
困ったことに、それらを入れていた棚は引っ越しのときに整理したものに含まれていた。もう、箱の中に入れっぱなしでもいいかな、とも思ったけれど、とりあえず並べてみた。
こういう感じは嫌いじゃないかな。
バターディッシュの世界
仕事納めのあと、Kと落ち合ってジムでガシガシ運動して、カロリーを十分に使ったよねってことで串カツを食べに行った。いい具合に串カツ食べて、熱燗飲んで。串カツ屋は満席でわさわさと人の声や有線の歌やTVの笑い声で満ちていて。確かに、冬山で遭難したら今の風景を幻覚で見てしまいそうな感じ。
ちょっとほろ酔いになりつつ、成城石井にワインやシャンペンを買いに行った。そこでバターももうなくなりそうだからとバターを見ていた。さすが、成城石井。お高いバターがそろっている。エシレバターとかうまいよな。でも、まあ、そんなに高くないのにしようかな、って思っていたらKが、もう二人とも稼いでいるんだしちょっとくらい贅沢してもいいんじゃないかとのことなので、イズニーチャーニング発酵バター加塩なるものを買った。ちなみにバターは加塩派。
それで、以前からバターディッシュを買いたいと思っていたんだけど、踏み切れずにいた。お高いバターも買ったことだし、バターディッシュを買おうと思って、とりあえずアマゾンを見てみた。
バターディッシュはガラスのものと陶器のものを使ったことがある。ガラスは中のバターが見えてしまって、途中からあまり美しくないので、陶器のほうがいいなと思って検索をした。
バターディッシュで陶器であると、陶磁器よりは、スポンジウェアーのクリーム色の肌に藍色の手書きの絵付けがいいなーと思っていたら、あるある。ポーランド製の陶器のものがゴロゴロ出てくる。が、値段がすごい。最高で35万円。はい。
これは、もう、別世界の話だわ。
そのほかにも、2万円や3万円がゴロゴロ。
この品ぞろえを見ていると、5000円くらいのものがお安く手ごろに見えてくる。
で、ついつい、3000円くらいのものを買ってしまった…。お安いと思ったんだけど、今振り返ると、高いよ。
今年最後に、バターディッシュの世界に迷い込んで、無駄遣いをしてしまった。
来年も、こんな感じで、ゆるく出力50%で二人で過ごせるといいな。
坂の上から
今の職場は坂の上にある。
わたしの通勤経路は坂を下りないでそのまま坂の頂上を歩いて帰るんだけど、ふと坂の上で振り向いてみた。
晴れた夕方で陽はもう沈んでいて、残り日が空の高い位置を照らしている。その光の中に高層ビル群が浮かんでいる。高層ビルのオフィスの窓は明かりがついていて、航空障害灯がそれぞれのリズムで点滅している。
坂の下からは濃くなっていく夜が昇ってくる。
空の色は高い位置ではまだ昼間の青さが残っている。わたしの目の高さでは、アヒルの卵のような緑色。イングランドでegg shell colourとして美しい夕暮れに欠かせないものとして大切にされていた色。
空気は澄み切ってはいない。無数の細かい塵が舞っていて、高層ビル群はいつもよりも遠くに霞んで見える。
さて、この景色を見ているこのわたしの気持ち、これをいかにして表現をしようか。
…と美しい表現を考え、とつおいつ、帰宅をしていた。青春の夢の残り…は感傷的過ぎて愉快だ。遠くに来た感じ…がするんだけど、もうちょっとなんとか。ユーカリとレモングラスのエッセンシャルオイルをブレンドして、ちょっとだけゼラニウムを足した、ちょっと甘ったるくてすうっと向こう側に抜けていく感じの香りみたいな。
と、その時。
後ろから追い抜いて行った人が歩きながら飲んでいたビールの香り。
うん、美しい風景は美しい風景で、今のわたしに必要なのは美しいことばではなくビールだな、って、急に日常に戻ってしまう。
でも、まあ、北側の坂の頂上から晴れた秋の夕暮れに眺める高層ビル群はなかなかきれいです。