小人閑居

世の中に貢献もせず害もなさず、常に出力50%。

坂の上から

今の職場は坂の上にある。

わたしの通勤経路は坂を下りないでそのまま坂の頂上を歩いて帰るんだけど、ふと坂の上で振り向いてみた。

晴れた夕方で陽はもう沈んでいて、残り日が空の高い位置を照らしている。その光の中に高層ビル群が浮かんでいる。高層ビルのオフィスの窓は明かりがついていて、航空障害灯がそれぞれのリズムで点滅している。

坂の下からは濃くなっていく夜が昇ってくる。

空の色は高い位置ではまだ昼間の青さが残っている。わたしの目の高さでは、アヒルの卵のような緑色。イングランドでegg shell colourとして美しい夕暮れに欠かせないものとして大切にされていた色。

空気は澄み切ってはいない。無数の細かい塵が舞っていて、高層ビル群はいつもよりも遠くに霞んで見える。

さて、この景色を見ているこのわたしの気持ち、これをいかにして表現をしようか。

…と美しい表現を考え、とつおいつ、帰宅をしていた。青春の夢の残り…は感傷的過ぎて愉快だ。遠くに来た感じ…がするんだけど、もうちょっとなんとか。ユーカリレモングラスエッセンシャルオイルブレンドして、ちょっとだけゼラニウムを足した、ちょっと甘ったるくてすうっと向こう側に抜けていく感じの香りみたいな。

と、その時。

後ろから追い抜いて行った人が歩きながら飲んでいたビールの香り。

うん、美しい風景は美しい風景で、今のわたしに必要なのは美しいことばではなくビールだな、って、急に日常に戻ってしまう。

でも、まあ、北側の坂の頂上から晴れた秋の夕暮れに眺める高層ビル群はなかなかきれいです。