聞きたくなかった言葉
退院は少し無理やりしてきた。仕事があるから。仕事があるから退院するなんて、すごい大人になったなーと自分のことを遠く感じる。
でも、退院直前の血液検査で異常があったら退院させないからね、と主治医に言われた。
病棟には新人看護師が配属されていて、頑張っているんだけどなんだか失敗が多いのか、常に緊張気味。失敗するんじゃないかという悪いイメージですべての作業に取り掛かっているので、常に失敗してしまい、余計に悪いイメージが強化されてしまう―魔の悪循環に陥っていた。
なんかひとこと声をかけてあげたいなー、と思いつつ、自分の具合の悪さに「無理無理無理…」と何もできないまま。せめて、おとなしく看護を受けよう、とたぶん病棟の入院患者全員が思っていた、だろう。
そして、退院の朝。
採血に来たのは、新人看護師さん。まず、隣のベッドの患者さんの採決をしているけれど、なかなかうまくいかない様子が伝わってくる。看護師さんの焦りとパニック、患者さんの無言のサポートがカーテンを通して伝わってくる。
そして、わたしの番。
わたしの血管は太くて素敵、と多くの医療従事者から褒められてきたので、是非わたしの血管で自信を取り戻してくれたまえ、と腕を差し出す、が。
看護師さんの手は震えて、体中に汗がびっしり。なんとか狙いを定めるもなかなか針をさせないで逡巡を繰り返す。ようやく意を決して刺すも、一気に刺せずに少しずつ牛歩のように刺すから痛いっつうの。
それでも、有望な看護師さんの将来をつぶしては、と我慢をしていた。一生懸命に我慢をしていたら。
「あ、だめだ…」
と看護師さんが小さくつぶやいた。
うん、それは心の声に押さえておいてほしかったな。針のところから漏れてる血を見ながら、聞きたくない言葉ってホントにあるよな、とちょっと上から目線で考えていました。