小人閑居

世の中に貢献もせず害もなさず、常に出力50%。

巣立ちのとき

裏の森に今年はノスリが巣をかけていた。隣の谷にいたノスリの数が増えてわたしの住む谷に新しいテリトリーを求めてやってきた…のだろうと思う。

そのヒナが巣立ちのときを迎えたようだ。

ある朝、やたらとノスリがうるさく鳴いていた。とにかくうるさい。猛禽類独特の何かを切り裂くような声でとにかくよく鳴く。いったい何事か、と思って外を覗いてみた。

そうしたら、家のちょうど前にある電話線の配線柱にノスリがとまっている。そのノスリが鳴いているらしい。双眼鏡で覗いてみるとくちばしがすこし黄色く今年のヒナらしい…とわかった。もう一羽、森の高いところで鳴いているノスリがいる。ヒナはその声に答えて鳴いてるのだけれど、一向に飛ぶ気配がない。

鳥のように飛べたらどんなに気持ちがいいだろう、と思うのだけれど、鳥というのは食料を集めるなど必要なときにしか飛ばないものらしい。なので、猛禽類は飼われると飛ばないでも餌がもらえると学習して飛ばなくなるらしい。そして、下手をすると肥満の一途をたどって飛べなくなるという話を聞いたことがある。

このヒナも、巣にいるかぎりは親が餌を運んできてくれるのだからなんで飛ばなきゃいかんのか、と文句をいっているように見えた。

「だってさー、おかーさんとおとーさんが餌持ってきてくれるじゃん? なんでわざわざ飛ぶなんてめんどくさいことをしないといけないのさ」
「あなたもそろそろ自立をしてね、自分で生活を立てていかないと…」
「そんなのめんどくさい。だいたい、餌なんて取れないよ。テリトリーだって隣のおじさんに意地悪されてうまく作れないしさ」
「そりゃあ大変に決まってるでしょう…」
「やだやだ。怖いよ。自立なんてしたくないよ。このままおうちにいてもいいでしょう。自立してなにをしていいのかもわかんないよ」
「…」
「社会は僕なんか必要じゃないんだ。駄目だよ、怖くて外にいけないよ」

なーんて、ノスリの世界のニート誕生かと思っていた。が、痺れを切らしたらしい親鳥がまっすぐにヒナに向かって飛んで行き鋭く鳴いた。

びっくりしたヒナはあわてて配線柱から飛び立ち、上昇できないまま下降していった。そんなヒナに目もくれず親鳥は高く飛んでいってしまった。

わたしも、いざというときには息子を蹴りだすくらいの気概をもった母親でいたいもんだ、とノスリの親鳥を見て決意も新たにした今日この頃。



野生動物の写真って難しい。ピンが甘くてスミマセン。