小人閑居

世の中に貢献もせず害もなさず、常に出力50%。

子狐

そのころは、毎日がどうしようもなく過ごしにくかった。手袋の薬指のところに小指も一緒に入れてしまったような、靴下のかかとが足首の前に来てしまったような、自分のサイズに合ったものを身に着けているはずなのに、何かがあっていない。Inadequateという単語を額に彫りこまれ、手袋の中で指を直そうともがき、靴下の向きを変えようと靴の中でつま先を動かし、ごそごそしていると、落ち着きがなくてやっぱりだめだと…。

苦しくて苦しくて、苦しさを訴えようとしても言葉がうまく出なくて涙ばかりが出て、感情的と言われ、そんなinadequateな人はここ以外のどこでも絶対だめだと言われ。

あれが、ダブルバインドってやつだと今だとわかる。まったくね。

そんなころ。冬の夜、時々そっと庭に逃げていた。空に雲がなく、町からも遠い空には天の川がきれいに見えていて、静かに草木が凍っていく夜。じっと座っていた。しばらくすると、なにかが視界の端で動いてそっととなりに座った。そのころ飼っていたクロちゃんにしては、ちょっと大きい。うん、ちょっと大きい…。あれ?と思ってみたら、その動物も同じタイミングでわたしを見て、しっかりと視線があった。

子狐。

ちょっと見つめ合ったあと、子狐はいなくなってしまった。






突然思い出した、冬の夜のこと。メモ代わりに。
Kにも出会っていない、おかめもまだ生まれていなかった、そんなころ。