小人閑居

世の中に貢献もせず害もなさず、常に出力50%。

大人になるのは悪くない。ちっとも悪くない。

去年、矢野顕子のライブに行ったときに演奏を聴いて、気持ちにしっかりと寄り添うと感じたのが「恋愛宣言」という歌だった。感動、というのとはちょっとちがう。

Kと出会ってから彼女に対する自分の気持ちを胸の中から取り出して自分で彫刻という方法で形にしてみたことがある。そうしてできたものは、「ああ、そうそう。こんな感じ。こんな感じなんだよね」と、ちょっとかざして触って見て確かめて、棚の片隅にちょんと置いておくようなものとなった。現に今もそれはテレビがおかれた棚の下にいつもはすっかり忘れられて置きっぱなしほこりまみれになっている。でも、時々、思い出しては触って見て、「うんうん、そうそう。こんな感じ。こんな感じなんだよね」と頷いている。

それと同じように手元に置いておきたい曲だな、と思っていた。かといって、矢野顕子をうちの本棚に突っ込んでおいて、歌が聞きたいときに歌ってもらうわけにはいかない。それはきっぱりと犯罪だ。

そういう現代の欲望を満たすのがiPodなんだな、とこの週末に急に気がついた。恋愛宣言はやもりのアルバム「あなたと歌おう」に収録されている。早速アップルストアで検索した。都合がいいことに結婚のときのお祝いとしていただいたiTuneのクレジットが400円ほど残っていた。そこで購入をクリックしたら、どういうわけかもヘチマもなく、わたしが間違ったところをクリックして、確認画面でもあまりよく考えずにEnterを押してしまったため、アルバムのダウンロードが始まってしまった。

ダウンロードしてしまったものは仕方がない。アップルストアに登録しているクレジットカードはわたし名義ではなくKの名義だから請求は彼女に行くだけだ。Kはやさしいからこんなことで怒ったりわたしを責めたりしない。と、自分に都合のいいように考えた。

翌朝、節電で冷房が効いていなくてしかも窓が開けられない電車の中で隣の人にかばんを押し付けられながら、現実逃避をするつもりでイヤフォンを着け、ちょっと聞いてみるか、と「あなたと歌おう」を再生した。

しみじみと買って良かったなと思った。

大人になるのって、歌の世界ではとかく「大人になんかわからない」とか「そんなに俺がわるいのか」とか「ずるくなって腐りきるより阿呆のままで昇天したかった」などといわれるけど。そんなことはない。

自分のしたいことを自分の責任でできる。誰の許可も要らない。仕事だってつらいけど、そんなときは有休とって自分のお金で温泉にだっていけちゃう。自分が愛する人を見つけ、その人に愛され、二人で生活を作っていくことだってできる。猫だって飼える。

そんな風に大人になることはちっとも悪くないと、改めて矢野顕子と森山良子の歌声を聞きながら何度も頷いてしまう今日この頃。