小人閑居

世の中に貢献もせず害もなさず、常に出力50%。

ふとっちょのおば様のために。

今朝、ニュースでサリンジャーが死去したと聞いた。そのニュースで忘れかけていた高校生のころから日本を去るまでの7年間の自分の精神状態を思い出した。自分は誰にも理解されないと孤高を気取っていたころ。

そのころ、多くのテーンエイジャーがそうであるように、わたしも「ライ麦畑でつかまえて」を読んだ。興奮して気に入ったセンテンスに赤線を引いたり感想を書き込んだりしながら徹夜で読んだ。あの本はどうなったんだろう。まだ両親の家に置き去りにされたままなのか。あんなに興奮して読んだのに、二度と手に取る気になれなかった本でもあった。気に入った本は何度も何度も読み返すのに、あの本だけはもう一度開いてもなぜか心に響いてこなかった。

わたしがばらばらになるまで読んだのは「フラニーとゾーイー」だった。この本もなくしてしまって、今どこにあるのか分からない。この本はティーンエイジャーだったわたしのカウンセラーであり友人だった。

高校のとき、サリンジャーは隠遁生活をしているけれど一度だけインタビューに答えたことがありその翻訳記事がなんとかいう雑誌(雑誌名は忘れた)に載っている、と知った。図書委員だったわたしは職権乱用で書庫に入ってその雑誌を探し出した。その記事の内容は覚えていないけれど書庫の埃っぽい古い紙の匂いは懐かしく思い出せる。

BBCの報道によると、サリンジャーの家には大きな金庫がありそこに少なくとも15の未発表の完成原稿が入っていたと彼の友人達が話しているらしい。そのほとんどはグラース家の物語らしい。

サリンジャーシーモアが自分の弟妹に言ったことを自分も実行していたんだなあ。「太っちょのおば様」のために作品を書き続けていたんだなあ。

心よりご冥福をお祈りします。