小人閑居

世の中に貢献もせず害もなさず、常に出力50%。

あこがれていたものを手に入れた。

理由はいろいろとある。合理的に説明することもできる。

海外種であり侵略的な植物である石楠花を森から一掃しなければいけない。そのためには、農薬を使って石楠花を枯らせるか、時間はかかるけれど毎年春にすべての枝を切り落とすか、どちらかをしなければならない。わたしの森は生態系において大事な役割を果たしているというお墨付き保護林なので農薬を使うのは避けたい。では、石楠花の枝を切り落とすためになにを使うか。チェーンソーは怖い。のこぎりで一本一本切り落とすのも、植木鋏で切るのも、肩や腕に負担がかかる。


だから、鉈を買った。

…たぶん、本当は少し違う。探検隊が鉈で生い茂る木の枝やつる草を切り払いながらジャングルを進むのを見て、かっこいいとあこがれた。ひとはらいでさくりと明るい音を立てて枝が落ちる快感はどんなだろうと思い描いた。でも、鉈を必要とするようなことはないだろうと思っていた。鉈を買う、という選択肢など自分にはないと思い込んでいた。

そんなわたしの前の棚の上には、のこぎりと鋏とチェーンソーと鉈がごく当たり前のように置かれていた。分厚い鉄の刃はどきどきと研がれていて堅固な柄は手にしっくりなじんだ。値段は高いのだけれど、木の枝をはらったり潅木を刈り込むのに最適、と書いてあるのを見て、石楠花に向かって鮮やかに鉈を振り下ろす自分を想像したら、ほかのものは視界から消え果てしまった。

さくり、さくり。

今すぐにでも森に行って石楠花退治をしたいのだけれど、雪が降っていて外はもう真っ暗。

さくり、さくり、と軽やかに鉈を振るう自分を想像しながら、切れなくてじたばたしているかっこ悪い自分しか見えてこない。それが少々残念。