小人閑居

世の中に貢献もせず害もなさず、常に出力50%。

オリーブオイル

二週間ほど前、夜の10時を過ぎてから赤ワインが飲みたいと思った。Kも同じ思いだったようで、ふたりで飲みたい飲みたいと合唱を始めた。

いつもならそれで終わり、結局は買い置きの焼酎を飲むことになるのだけれど、その日はなんとなく買いに行くことにした。自転車が電動アシストになったのも大きいかもしれない。近くの24時間スーパーマーケットに行くことにした。

Kに、待ってろよ俺赤ワイン買って帰ってきたらお前と結婚するぞ、などと言って不必要なフラグを立てることで安全を確保するという呪術的行為をしつつ家を出た。

まっすぐにスーパーマーケットへ行きまっすぐにワインの棚にいきまっすぐにフレンチメルローのボトルを握り、これではまるでアルコール依存症ではないか、と笑ってしまった。

夜の10時過ぎはすいているかと思っていたがスーパーマーケットのレジはどれも行列になっているくらいの混みようだった。仕事帰りにビールと弁当や惣菜を買っている人が多い。そのなかで異彩を放つ男性が一人いた。

ほとんどの人が一人分の買い物をしている中、彼は明らかに10人分の晩御飯的なものを買っていた。レジの係りの人がかごの中身を移していく。3人前くらいの寿司パックを3つ、ペットボトルの清涼飲料水、大きなビールのアルミ樽、10本入りの焼き鳥パック4つ…。

週末を前にして突然、彼の親戚か何かが泊まりに来て、奥さんから、あなたの親戚っていつもそうやって勝手に来て勝手に泊まって勝手に食い散らかしていっていい加減にしてあなたが責任を持ってもてなしてわたしは子どもと実家に帰ります掃除もきちんとしときなさいよ…とやや発言小町に毒されたっぽい想像が勝手に頭の中から歩き出した。

スナック菓子4袋、するめの大袋。だいたい義父さんはいつでも飲んでは下品な冗談ばかり。アイスクリームの大きなパック。義妹さんだって子どもを理由に集ってばっかり。オリーブオイル2リットル瓶3本。義母さんはうちに来ては春巻き作りまくるし…。

春巻き?オリーブオイルで春巻きはあげないだろう…。なに考えてんだ。いやいや、オリーブオイル3本?6リットルのオリーブオイル?夜中に家族で石鹸作りが正解?

突然途切れてしまった想像の切れ端を握りながら、赤ワインを買って家に帰った。