小人閑居

世の中に貢献もせず害もなさず、常に出力50%。

肘下で

イングランドでの休暇から帰ってきて、日本が暑いので文句を垂れまくっている。しかも、じめじめとした雨が降っていて外出するには最悪の天気だったが、用事があるのだから仕方がない。

じっとしていると肌寒いのに、ちょっと歩いたりすると湿気の高さもあって肌に油を塗られたように汗がにじんでくる。うっとうしいと思いつつシャツの袖を捲り上げる。捲り上げながら、いまだに袖を捲り上げるときに、「肘下、肘下」と考えている自分に気が付いて笑ってしまった。



中学校のとき仲のいい男の子がいた。が、きっと学年全部の女の子が彼とは仲がいいと思っていただろう。誰に対してもこの人にとっては自分が大事な友達なんだ思わせてしまう不思議な愛嬌があり、なかなかハンサムな男の子だった。ギターが上手かった。中島みゆきの「寒水魚」と「うらみます」のLPを貸してくれた。長髪だった。いつもジーンズにTシャツ*1なんだけど不思議に垢抜けてかっこよかった。そして彼の出生には京都らしい華やかなうわさがあった。学年に何人かはそういう出生にまつわる華やかなうわさがささやかれる生徒がいたけれど、彼の場合は特に華やかだった。

わたしが夏に暑いのでシャツの袖を思いっきりたくし上げていると、その彼が笑いながら

「あかんって、そんなに上までまくったら。かっこ悪いやん? 肘下まであげるんがかっこいいんやで」

と、シャツの袖を直してくれた。ファッションや服装に昔から疎いわたしにとって、たぶんはじめで最後のスタイリング・アドバイスだったんだろう。お礼を言いながら、こいつはこういう部分にまで気を使って生活をしてるのかと少し尊敬をした。



それを今でも覚えているのだから、彼には感謝をしないといけない。

*1:校則なし服装規定なしの学校だった。