小人閑居

世の中に貢献もせず害もなさず、常に出力50%。

もう帰れない場所、もう会わない人。

「あの家」の夢を見た。


懐かしい懐かしいあの家。わたしがとても幸せな時間を過ごしたところ。

わたしは旅支度をしている。とても小さな重いスーツケースを持ってその家に入っていく。間取りも部屋の内装も窓の大きさもなにもかも違っている。あの家はアメリカ開拓時代風の木造建築ではなかった。けれどそれはわたしの「あの家」だ。6歳の息子がいる。Kがいる。おかめも頭をわたしの足にこすり付けてくる。

わたしは明日は早くに発たなければならないからとみんなに言いながら二階のかつて自分がベッドルームにしていた部屋に荷物を持っていく。でもそこには別の小さな女の子がいてわたしはその女の子に言い訳がましくここに今夜泊まることになっていると言う。女の子はお父さんからその話は聞いているとにこりともしないで言う。この家にはもうほかの人が住んでいてわたしはここには帰ってこれないんだと唇を噛む。

一階に下りていくと玄関のドアが開いていて郵便屋さんが来ている。6歳の息子がわたしを見上げながらたくさんの郵便がおかあに来たよ待ってた郵便が全部来たよと言う。郵便屋さんがわたしにさまざまな大きさの郵便の束を手渡す。ほとんどはダイレクトメールのように見えるそれを受け取りながら開いたドアからおかめが外にでないようにおかめの頭を押さえる。

郵便のうちのふたつは誰かが自分で撮った写真を切って作った絵葉書だ。氾濫している川の水に浸かっている公園。嵐の空中から撮ったらしい神社はこれもあふれかえる海の水で岸辺からの参道が波の下に沈んでいる。Kが横から覗き込んでくる。これはね昔のご近所さんが洪水のときの写真を送ってくれたんだよ。この公園でいつも息子が遊んでいてこの神社はあの家のそばの海岸にあったんだよ。

もう一枚は古い日本語タイプライターで打ったと思われる葉書。残念だが俺は上京中だからお前にあえない。pipipipipi。古いのも新しいのも俺のお袋もいるのに残念だ。

だれが彼にわたしがここに立ち寄ると連絡したのだろう。わたしはもう二度と彼とは会わないと決めたのに。



夢から覚めた後、別の夢で見た坂道や細い路地や森の風景が頭の中をランダムによぎって、あの家も自分の記憶の中で変わりながら姿を現し続ける帰ることができない場所になったのだと考えていました。

それでも夢の世界で時折はあの家に帰ることができるんでしょう。あの人も夢の中に葉書をよこすのかもしれませんが、わたしはもう二度と連絡も取らないと決めたのでその葉書は夢の世界に置いておきたいと思います。

こんな夢を見たのは現在ないことにホームシック気味なのと、あの友人と出会った思い出の町に仕事でこれから行くことになってるからだろうと自己分析しておきます。