小人閑居

世の中に貢献もせず害もなさず、常に出力50%。

戸棚の奥からでてきたもの

子供のころから台所のシンクの下にはラッキョウや梅干や梅酒などの自家製の保存食を入れるものだと思っている。家庭によって違うのだろうけど、わたしにとっては台所のシンクの下には梅干があって当たり前。

今日、やっとのことで注文したコメが15kgとどいた。どういうわけか、宅配の会社のナビゲーションシステムがとんでもない裏道をぬけさせようとしていたらしい。一日目は山の中で立ち往生をして来れず。二日目は電話がかかってきたので目指すべき村の名前を告げたのだがそのメモをなくしたとかで、やはりナビにしたがって山の中で立ち往生。なぜ地図を見ないんだ、とかなり頭に来た。

そこで、米の販売店に連絡を取ってそちらから宅配業者に連絡を取っていただいた。そうこうしているうちにドライバーから連絡があったので、ナビに頼らずに地図を見て来い、最短距離を行こうとするな、と伝えた。朝一番につくはずだったのに、ついたのはすでに夕方。ドライバーの方もくたくたに疲れていて申し訳ないような…。

届いた米をシンクの下に入れた。そのため、少し中を整理したら一番奥からサンザシの実で作った果実酒がでてきた。


赤味のかった琥珀色になっている。作った当初はジンに浮いていた実が少し沈みつつある。

この実を息子と摘んだのは…と思い出していた。そのときからずいぶんの時間が経っている。あっという間だったような気もするのだけれど、長かったような気もする。

梅酒

死んだ智恵子が造つておいた瓶の梅酒は
十年の重みにどんより澱んで光を葆み、
いま琥珀の杯に凝つて玉のやうだ。
ひとりで早春の夜ふけの寒いとき、
これをあがつてくださいと、
おのれの死後に遺していつた人を思ふ。
おのれのあたまの壊れる不安に脅かされ、
もうぢき駄目になると思ふ悲に
智恵子は身のまはりの始末をした。
七年の狂気は死んで終つた。
厨に見つけたこの梅酒の芳りある甘さを
わたしはしづかにしづかに味はふ。
狂瀾怒濤の世界の叫も
この一瞬を犯しがたい。
あはれな一個の生命を正視する時、
世界はただこれを遠巻にする。
夜風も絶えた。

青空文庫より引用


ふとわたしが好きだといったらKも好きだといった詩を思い出した。

わたしたちはこれから陽気にこのサンザシのジンを一緒に飲むことがあるだろう。しかし、高村光太郎と違い凡庸なわたしには、この果実酒にまつわる悲劇性としては飲みすぎの二日酔いの苦しさしか思いつかない。