小人閑居

世の中に貢献もせず害もなさず、常に出力50%。

ちらし寿司

ひな祭りだし、久しぶりに日曜日が休みになったし。ちらし寿司を作った。ハマグリのお吸い物と鯛の塩焼きも。

昨日の夜、椎茸の炊いたんを作り、ハマグリの塩抜きを開始。朝から酢レンコンを作って、そこに人参と大量の糸三つ葉も入れて冷まし。炊きあがった米に酢レンコンを煮汁ごと、穴子と椎茸の炊いたんの刻んだもの、スナップエンドウの刻んだもの、カリカリ梅、干しサクラエビしらすなどなど、さっくり混ぜて、錦糸卵やスナップエンドウやとびっこなんかを飾り付けて。

ちらし寿司って、本当にハレの食べ物だなって作るたびに思う。

具だくさんのちらし寿司は軽くておいしい。作り立てはいろんな味がしておいしいし、しばらくなじませると、ふんわりと口の中で風味がほどけていくのもおいしい。芹が売り切れだったのが残念。芹が入ると本当に春のちらし寿司らしくなるんだけど。

ちらし寿司にハマグリのお吸い物と鯛を添えておひるごはん。

外は冷たい雨が降っている。この冬最後のマルドワインを飲みながら、雨の音を聞く日曜日の午後。

そんで、テレビでは2時間サスペンスドラマの山場で、死体やら木の枝やらメスやらが飛び交ってカオス。

もう、昔の話だねえ。

神戸に行った。ポートアイランドに出張。

ポートアイランドと言えば、ポートピア博。何度か行って、ポートライナー無人運転に興奮したり、インタラクティブ映像の展示に感動したり。ポートピアホテルは風が吹くと向きが変わるんじゃないかって思ったり。あんな高級なホテルに泊まる人ってどんな人なんだろうと思っていた。

もう少し大人になってからは、ポートピア遊園地に遊びに行ったりもして。

そんなこんなを思い出していたけど、一緒にいたお若い方たちはポートピア博なんて知らないんだよね。ぽーとーぴあー、とか頭の中でさみしく歌っちゃったわ。そんでポートピアホテルに泊まって、窓から神戸空港の飛行機を夜に眺めてました。ポートピアホテルのショッピングアーケードの階段の下にポートピア博の模型が押し込まれてて、センチメンタルになりましたわ。あのホテルに泊まるのはこんな人だよ、って子供のころのわたしに教えてやりたい。

そんな懐古気分に浸りつつ、昼休みに神戸どうぶつ王国に大急ぎで行って、ハシビロコウ見てきた。そして、猫撫でて、他人の猫って撫でても超つまらんって気が付いた。神戸牛はうまかった。

夢叶う

「夢は追い続けていればいつか必ずかなうものだ」…いや、「夢は見続けていれば…」だったか。立松和平の「海のいのち」に出てくる言葉だ。もちろん、国語の教科書で読んだ。がむしゃらに夢に向けて頑張る必要はない、毎日を淡々と生きていくことが大事だ、と勝手に解釈をした。そうすれば、気が付くと自分が立ちたかった場所にいつの間にか着いている。でも、その瞬間は祝祭的に訪れるのではなく、昨日の延長にある今日。その向こうに見えるのは、明日。大きく変わることはなにもない。ただ、気が付くと夢は昨日になっている。夢がかなう、というのはそういうことだ、と勝手に解釈した。

さて。

むかーしむかし、小説を書きたいと思ったことがあった。すごい昔。石器時代くらい。でも、自分にはひとつのテーマを中心に文章をまとめ上げる力、それは頭脳とかじゃなくもう腕力といってもいい、そんな力がないことに気が付いた。でも、編集さんから「初校」なんてハンコが押された原稿を受け取り、書き込まれた編集さんからのコメントに「うーん」なんてうなりながらペンのお尻で頭をカリカリ…なんてするかっこいい横顔を夢見ていた。ぼんやりと。

そしてある日。ふと気が付くと、自分の手に自分の名前が載った「初校」とハンコを押された原稿があった。そこにたどり着くまでは、校正の原稿の夢なんてすっかり忘れていて、ひとつのテーマに沿って矛盾なく、無駄なく、論理の破綻なく、文章をまとめ上げることに苦しんで苦しんで、疲れ果てて。

そんな日々に終わりが見えてきたとき、ふと気が付くと手の中に「初校」原稿があった。そうだ、これはわたしの夢だった。急に気が付いた。

こんなところで待っていたんだね。ありがとう。

そして、編集さんのコメントの有能さに脱帽しました。すごい。

さらに、わたしがいろいろと遅かったせいで、入稿が印刷スケジュールぎりぎりになって、みんなであせりまくる、というありがちな状況までついてきた。

夢がかなうのは、夢のために生きたからではないんだな。

テレビの魅力

自分にとっては大きな一つの仕事が終わり、まずまずの評価と興味を持ってもらい、ヒャッハー状態の夜。Kとシャンペンを開けていい気分に酔っぱらっていた。今回は誰のものでもない、自分の仕事。周囲からもKからも助けてもらったけど、自分でデザインしたタスクでデータ的にも納得いく結果が出た。そして、その結果が出るためにはどうしても協力をしてもらわないといけない人たちがいて、快く協力してもらえて、もう、感謝しかない。

そんな感じで、二人で仲良く録画していたコント番組見て楽しく笑っていた。録画が終わると、たまたまある番組が放映されていた。だんだん、自分たちが知っている場所にロケが近づいて行って。え、このテーマでこっちに行くって、それはわたしたちの宝物のあの場所に行くしかないんじゃないの。この条件でこの方向では、あそこしかないじゃん。ってか、ここまであれこれ蘊蓄言っといて、あそこに行かなかったら怒っちゃうよ。

ロケのカメラはよく知っているあの道を曲がり、あの坂を上がり、そして、あの入口へ。

まじかー。やっぱりかー。
あー、でも、こんな風に放送されたら、人が殺到するやん〜。
うわー。
なんも知らん一見さんは、あほなこと言うからかなわんわ。
あー、でも、やっぱりええとこやな。
また行こか。

よく知っているあの場所も、テレビで紹介されると改めて、魅力が見えてくる。そして、二人で熱くあの場所の魅力について語り合ってしまった。

多分、ネットで紹介されても「はー、そうですか〜」くらいの反応しかしない。それが、自分がよく知っている人や場所がテレビカメラを通して画面に映し出されるとものすごい興奮。知り合いにLINEとかメールとかしまくって「見て見て、今すぐ見て!」って連絡したかった。酔っぱらってたので、スマホがうまく使えなくて誰にも連絡できなくてよかった。してたら、夜中にえらい迷惑をかけてしまうところだった。

自分の日常がテレビカメラと電波を通して自分の家のテレビ画面に映し出されて、突然キラキラした非日常になる。この興奮はテレビでしか味わえなくて、テレビってそういう魅力があると思うのです。だから、テレビは高尚であったりする必要はない。日常的でつまらなくていいと思う。映し出される日常を非日常に変えていて、今日も日本のどこかで「きゃー」ってほかの人からは全く共感してもらえない興奮をだれかが感じているってなんかいいなと思うのです。テレビ、大好き。

子狐

そのころは、毎日がどうしようもなく過ごしにくかった。手袋の薬指のところに小指も一緒に入れてしまったような、靴下のかかとが足首の前に来てしまったような、自分のサイズに合ったものを身に着けているはずなのに、何かがあっていない。Inadequateという単語を額に彫りこまれ、手袋の中で指を直そうともがき、靴下の向きを変えようと靴の中でつま先を動かし、ごそごそしていると、落ち着きがなくてやっぱりだめだと…。

苦しくて苦しくて、苦しさを訴えようとしても言葉がうまく出なくて涙ばかりが出て、感情的と言われ、そんなinadequateな人はここ以外のどこでも絶対だめだと言われ。

あれが、ダブルバインドってやつだと今だとわかる。まったくね。

そんなころ。冬の夜、時々そっと庭に逃げていた。空に雲がなく、町からも遠い空には天の川がきれいに見えていて、静かに草木が凍っていく夜。じっと座っていた。しばらくすると、なにかが視界の端で動いてそっととなりに座った。そのころ飼っていたクロちゃんにしては、ちょっと大きい。うん、ちょっと大きい…。あれ?と思ってみたら、その動物も同じタイミングでわたしを見て、しっかりと視線があった。

子狐。

ちょっと見つめ合ったあと、子狐はいなくなってしまった。






突然思い出した、冬の夜のこと。メモ代わりに。
Kにも出会っていない、おかめもまだ生まれていなかった、そんなころ。

太文字

Kがやけにモフモフとした大きい八割れ猫をひょいと差し出しつつ、

「この猫、肉球の裏に怪我してて、その怪我がちょうど太文字と同じ幅だから、太文字って名前だよ」

と言った。

ぐるぐると黄色い瞳を回しながら、太文字は「ぬー」と鳴いた。毛がくるくるとカールしていて、髭もくるくるで、コーニッシュレックスなのかな、しかしその割には体がふとましく手足が太い。

居間のど真ん中に水道の蛇口を設置したKは、太文字を居間の真ん中でごしごしと洗い出した。太文字は、ぬーと鳴きながら洗われるままに洗われている。洗うと猫は細くなるものだが、太文字の毛はカールがよりくるくるして濡れれば濡れるほどもっふりしていく。

本棚には木くずが詰め込まれて、天竺鼠が固まりになっている。

床の上には、綿埃がそこここで丸くなっている。また猫毛掃除の日々が始まるのか…とちょっとうんざりしつつ、Kは動物のいる日々が好きなのかな、とカーテンの上にとまって踊り狂っているおかめインコを捕まえながら考えていた。

おかめインコは「ぴるるんぴるるん」「ぶーぶーぶー」とうるさく泣き続ける。どうやったら止まるのかな、と手に持ったおかめインコをしみじみと見ると、それは自分のスマホの目覚ましが鳴っていた、という。



猫がいないと綿埃とかほんと少ない。あの小さい体であんなにたくさんの埃を製造していたとは。おかめ、すごいな。

そして、夢の中なれど、ふとましい八割れ猫に太文字と名付けるとは、Kのセンス、侮りがたし。

生まれ変わり

仕事からの帰り道にジムがある。たまにはちゃんと運動をしなければ、と思って行くことにした。

1時間、クロスランプでガシガシ走り、汗だくになる。柔軟体操をすると、背中やふくらはぎが固くなっていたことが分かる。足先から上半身、首と上へ伸ばしていき、上から下へもう一度伸ばしていく。

シャワーで汗を流し、さてドライヤーでも。と思って気が付いた。

化粧水やブラシや綿棒などなどすべて忘れてきていた。

もう、なんというか人間としてだめだ、と思った。

もしかしたら、気が付かないうちにおかめの生まれ変わりになってたのかな。そうしたら、最近まで猫だったんだから仕方ないよね。

と、ありもしないことを妄想しながら、ぐちゃぐちゃの髪をゴムで適当にまとめて帰宅した。


Kにわたしがおかめの生まれ変わりになった疑惑を話すと、「あの猫はもっときちんとした猫だった」と、猫よりダメ認定されてしまった。うん、まあ、そうだわな。